1976年初演
作・演出/三隅治雄 美術/前田哲彦 構成・振付/畑道代
カッチャとは東北弁でお母さんということである。
時は昭和九年、岩手県和賀郡(今の北上市)の冷害と不況にあえぐ農村を舞台に物語は始まる。
昭和九年とは、日本近代史にみる最も不況な年で、東北では沢山の女性がそのために売られていったという。
この作品も北上の富農、畠山家の養女である佐枝の婚礼の日、
売られていく貧しい人妻が自分の可愛い赤ん坊を必死の思いで佐枝にわたしていったことから、
養子の留吉と共に、その子健作を苦労して育てていく。
何もない貧しさの極限に立った人間にとって、
身につけた芸能は唯一の財産であり、楽しみである。
留吉は、郷里からもって来た剣舞の踊りや囃子をいつの間にか貧しい人達の心の灯として教え、
やがて佐枝、健作の親子三人が共に剣舞を躍ることによって、
生き抜いていく力の大切さをしみじみとかみしめる。
折りから日本は敗戦となり社会は一転する。
佐枝は、焼土のふるさとに力強く立ち上がり健作を育てるために、
また後継ぎの長太郎を一人前にするために心をくだく。
今日も朝は畑、昼からは行商を、その売り声も高らかに歩みはじめる。